「国民の生活が第一、自立と共生、政治の根本について議論する広場」

「日本一新運動」の原点―86

  

日本一新の会・代表 平野 貞夫

 

○ 『平野貞夫』の消費税制度物語!


 私の本棚の一番目立つところに、『消費税制度成立の沿革』という、厚さ約4センチほどの分厚い本がある。明治26年に京都で誕生し、主として法令集を出版している(株)ぎょうせいから、平成5年5月に刊行されたものだ。著者の名はなく、監修として、竹下登・平野貞夫の名前が載っている摩訶不思議な書物である。

 まず、この書物がどうしてつくられたのかを説明しておこう。海部政権が、本格的に政治改革をやることを決めた平成2年春、竹下元首相がブレーキをかけるようになる。当時、自民党幹事長の小沢一郎が「何か対応を考えないと・・・」と、悩みごとのひとつになり、相談があった。

 私が「さんざん苦労をして消費税制度をつくり、長期政権になるかと思いきや、リクルート事件にけつまづいて辞めざるを得なかった。そんなことから権力への欲求不満、消化不良があるのですよ。鎮魂のために『竹下神社』をつくりましょう」というと、真面目な小沢幹事長は「生きてる人の神社をつくれるのかなぁ・・」と、まともに応える。
 「神社というのは、竹下さんの功績を記念する行事か、出版のことですよ」と説明すると小沢幹事長は「わかった。そうなると消費税制度をつくった経過などを書物にして、竹下さんの名前で出版するか」と、言い出しっぺの私がその原案を執筆することになった。

 早速、小沢さんが竹下さんに会い、計画を説明したところ大喜びで準備にかかった。当時の私は衆議院事務局の委員部長職で、多くの部下を管理・監督する立場にあった。そんなことから、私の名前が絶対に出ないことを条件に執筆を始めた。

 平成3年12月には書き終えていたが、翌4年2月、私は参議院選挙に出馬するために衆議院事務局を退職した。原稿は当時の石原信夫官房副長が点検・監修し、職員がワープロに打ち込んだと聞いている。

 参議院選挙が7月末に終わり、8月末には経世会騒動が始まる。竹下さんの“皇民党”問題が国会で採り上げられ、証人喚問要求が出る。その頃、竹下さんから電話があり「竹下監修で出版の話だったが、皇民党問題で国民から批判をうけている。平ちゃん、すまんが君も国会議員になったんだから、名前を出してもよいだろう。二人の監修で出すことにしよう」という経過があった。

 この本は税制の専門家には評判が良く、これを参考にして博士論文を書いた学者が数人いたと漏れ聞いたが、社会の役にたてば結構なことだ。当時の大蔵省の職員もこれで勉強したことがあったようだ。消費税の改革や、増税をいうなら必読の資料だとは思うが、今の与野党の政治家だけではなく官僚も、そして学者ですらこの本の所在を知らないと思う。これだから、消費税制の本質論がすっぽり抜けて、技術的な枝葉末節の低レベルな議論に終始し、国民の側を向いていない。

 後期高齢者になって物忘れがひどくなったが、恥を忍んで、消費税制度の基本について問題提起をしておこう。

     大きな税制改革には歴史的必然性が必要だ。

 消費税率を2倍に増税しようとする税制改革は、大きな改革であり、その理由に“歴史的必然性”という根拠がいる。竹下首相時代に導入した「消費税制度」は、占領政策としてつくられたシャープ勧告による直接税中心の税制を改革し、経済成長した我が国の税制を、公平で公正とすることであり、「直間比率の是正」というテーマで徹底的に議論した。

     消費税増税論に欠如している歴史観。

 政権交代した総選挙のマニフェストで「任期中の4年間、消費税は増税しない」と民主党は国民に約束した。それを反故にし、裏切るには余程の理由付けが必要だが、麻生自公政権と同じ説明では詐欺といえる。しかも、昨年の参議院選挙で拒否された問題でもある。野田首相ら増税派は議会民主政治を理解していないようだ。松下政経塾では、議会民主政治のイロハを教えていないのかも知れない。

 「財政赤字」とか「社会保障の整備」とか「次の世代に付けを廻さない」などと増税派は屁理屈をいうが、すべて政策技術論だ。政策ミスに原因があることがわかっていないことに問題がある。繰り返して言うが、私も消費税を含む税制改革は抜本的に行うべきだという意見だ。その理由は「歴史的必然性」があるからだ。「社会保障の整備も歴史的必然性だ」と言いたいかも知れないが、それは官僚の技術論だ。

 TPPも同じだが、消費税に関する与野党や専門家の議論を聞くに、全員が20世紀後半の資本主義諸制度を前提にしている。歴史観にずれがあることに問題がある。20世紀の資本主義が崩壊したことに気づかず、欠陥を補えばよいと思っているのか。20世紀の市場経済社会が変質したのが米国のマネーゲーム資本主義だ。

     新しい資本主義の骨格づくりが前提だ。

 民主党が総選挙で政権公約した政治目標は「国民の生活が第一」であった。国民はこれを新しい資本主義の骨格だと思い、民主党政権を選んだ。消費税を含む税制改革もこの発想で行うべきだ。「4年間消費税を増税しない」という方針は、ここから発信している。「子ども手当・農家の所得保障」などなどは、米国式マネーゲーム資本主義へのセーフティネットといえる。野田首相ら増税派は、「国民の生活が第一」で政権交代して、「マネーゲーム資本主義」という小泉政治に逆戻りし、日本を亡国に陥れるつもりなのか。税制度は国家の政治を特徴づける源だ。急激に変化する21世紀の世界で「国民の生活が第一」の国家社会をつくるため、今まさに税制改革をするべき歴史的必然性がある。しかし、野田首相を狂わせている財務省は、20世紀の資本主義の福祉社会を前提としたものだ。経済成長なき資本主義時代に入った日本社会で、どう日本人が生きていくのか、これを前提に消費税のあり方を議論するべきである。

     消費税制度導入時期の最重要事項を知れ。

 竹下首相時代、消費税制度を導入するにあたり、政府与党は徹底的に勉強した。昭和63年10月、時の自民党政府は、『行財政改革の推進について』を発表した。この冒頭に「来るべき21世紀の経済社会を展望し、『活力ある福祉社会の建設』と『国際社会への積極的貢献』を目指し、行財政改革を推進することは、現下の国政上の最重要課題である」と宣言している。消費税の導入と行財政改革はセットであったのだ。

 この時代は米ソ冷戦が続き、日本経済はバブルだった。平成に入り、冷戦は米国の勝利で終結し、「ポスト冷戦時代」となった。やがて米国マネーゲーム資本主義が、世界の実体経済を壊し、リーマン・ショックでわかるように、20世紀の資本主義は崩壊したのだ。今、我々はあらゆる問題を「ポスト・ポスト冷戦」として考えなければならない。話は脱線したが、消費税導入とセットという大税制改革にも拘わらず、その後、本格的行財政改革は行われていない。

 平成になって「橋本行革」というのがあったが、あんなものは各省庁を併合して数を減らしただけで、権限と予算の実質改革は手つかずのままだ。一昨年の政権交代で、民主党が「予算の組替え」で16兆8千億円の行財政改革を断行すると公約した。私はこれこそ日本再生の鍵と思ったが、財務省振付けの「テレビ仕分け」で茶を濁し、本格的行財政改革は頓挫した。

     竹下首相の消費税に対する遺言。

 竹下首相と私の監修で『消費税制度成立の沿革』が完成して、竹下さんが慰労してくれた。その時の竹下さんの話が、今となっては遺言といえる。「なぁ、平ちゃん。消費税というのは危険な税だよ。財政の赤字を理由に税率を上げる癖がつくと国は潰れるよ。それに消費税を施行した年に自民党でつくった“消費税の見直しに関する基本方針”の大きな部分が、そのままになって欠陥消費税だ。日本に合うよう早く抜本的改革が必要だ」と。

 

 さて、野田首相は消費税増税は「待ったなしだ」と相撲の仕切りような話をして、年内にどうしても税率と実施時期を決めたいようだ。これに反対する意見も高まってはいるが、高橋洋一氏が「税の不公正徴収」の是正で約20兆円の増収になると指摘している。企業がごまかして、社会保険料が年金機構に入っていない問題、所得税脱税の捕捉、「インボイス方式」を採用していない消費税の徴収漏れなどだ。話半分としても、十兆円の増収は固い。「野田首相よ、まずはやるべきことをやりなさい」と、あの温厚な松下幸之助翁が、泉下で激しく怒っているよ!。

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