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『田中角栄を葬ったのは誰だ』あとがき

 『田中角栄を葬ったのは誰だ』あとがき(http://gekkan-nippon.com/?p=9090)

 

 今年は異形異能の政治家田中角栄がロッキード事件で逮捕されてから40年目。異常とも思える「角栄ブーム」が起きている。

 私は昭和35年に衆議院事務局に就職して以来、国会の裏方として、また平成4年に参院議員に当選してからは国会議員として、政治の表裏をじっくりと観察してきた。

 ロッキード事件が起きたのは、私が前尾繁三郎衆院議長秘書時代のことだった。今回、私は意を決して、ロッキード事件の真相を事実に基づいて克明に綴った。それは何としても健全な議会政治を復権させたいという、私の執念からである。それは私の心の叫びでもある。 

戦後70年余、紆余曲折をへながらも、議会制民主主義のもとでわが国は戦後復興を成し遂げ、国民生産額でも世界有数の地位に上り詰めた。しかし、敗戦国であるわが国の平和と繁栄は、戦勝国アメリカの庇護のもと、国家の最高規範である憲法はもちろん、安全保障も外交もすべてアメリカに丸投げにし、屈辱に甘んじてきた末に獲得した「不名誉な果実」だ、といっても間違いではないだろう。 

 名ばかりの独立国である日本は金満大国にはなったが、国家観は希薄で、歴史観すらもアメリカ製の戦後レジームを引きずっている。有体にいえば、残念ながら日本はアメリカの従属国なのである。しかし、この不愉快極まりない厳粛なる事実に正面から向かい合わない限り、独立国としての名誉も誇りも回復できない。そう私は考える。

 三木武夫首相はロッキード事件を「外為法違反」という名目で田中角栄を別件逮捕することで、早々に決着を図った。この裏で疑惑の中心人物児玉誉士夫の口を封じる謀略が、白昼堂々と行われた。私は今回この事件の真相を白日のもとにさらすことにした。

 児玉は敗戦後、A級戦犯として三年余にわたって巣鴨拘置所に収監された。児玉とCIAの関わりについては早稲田大学教授の有馬哲夫氏が『児玉誉士夫 巨魁の昭和史』文春新書)で詳述している。

 有馬氏は「児玉とCIAは、日本を共産主義に対する防波堤とする、再軍備させ、軍備を強化する、というところまでは共通点が多かった。だが、児玉の最終目的が日本を独立国とし、アジアの盟主として復活させることだったのに対し、アメリカの目的は、日本を自らに従属させ、対抗勢力にならないようにすることだった」と述べている。

 最重要証人である児玉誉士夫の証人喚問が実現していたら、どのような事態が生じただろうか。自ら「国士」をもって任じている児玉が事件の真相と、政界の裏面を暴露する可能性がまったくなかったとは言い切れまい。児玉証言は核爆弾級の衝撃を与える可能性があったのだ。そのため、児玉の証人喚問を是が非でも阻止しなければならない者がいたのである。

 こうして児玉誉士夫を意識障害で口もきけない状態にする謀略が行われた、と私は考える。その結果、ロッキード事件のターゲットは田中角栄に絞り込まれた。

 このことによって利益を得たのは誰だったのか。結局、この児玉証人喚問を封じ込めたことが、ロッキード事件最大のターニングポイントになった。

 本書で述べたように、田中角栄を起訴に持ち込んだ最有力証拠は「嘱託尋問調書」だった。この嘱託尋問は、日本国憲法はもちろん刑事訴訟法にも違反しており、本来、証拠として採用できる代物ではなかった。

 案の定、田中角栄が死去して2年がたった平成7年、最高裁判所は嘱託尋問調書の証拠能力を否定した。

 「日本の刑事訴訟法上、刑事免責の制度を採用しておらず、刑事免責を付与して獲得された供述を事実認定の証拠とすることを許容していないものと解すべきである以上、米連邦法上に基づいて行われた嘱託尋問調書については、その証拠能力を否定すべきである」(平成7年2月22日、最高裁判所大法廷)

 最高裁は田中角栄を違法な証拠で起訴したことを、自ら認めたのだ。前代未聞のことである。いまから20年以上も前のことだが、当時、政治家もマスコミもこの問題を深く追及することはなかった。

 今回、このあとがきを書くに当たって、『新潮45』に掲載された天野恵市氏の手記「児玉誉士夫の喚問回避に手を汚した東京女子医大」を、改めて読んでみた。

 そこには、ロッキード事件が発覚してから48日目の昭和51年3月23日に、アメリカに留学経験のある外国人を妻にした元ポルノ俳優が、セスナ機で児玉誉士夫邸に突っ込んで、炎上したことが書かれていた。天野氏はこの時、自分が児玉邸に行っていれば、「死者は操縦していた日活の元ポルノ俳優に東京女子医科大学の医療チーム2人を加えた3人となっていたはずだ」と書いてある。

 ここまで読んで、私はハッと思い、身震いがした。児玉の証人喚問は喜多村孝一医師による注射によって実現不可能になった。しかし、児玉喚問を何としても阻止しようとする勢力は、児玉誉士夫の命そのものを奪おうとしたのではなかろうか。そんな考えがふと私の脳裏をかすめたのだ。

 最後に、私たちはロッキード事件から何を学ぶべきかを考えてみたい。

 この事件は、戦後政治に巣食う病根を図らずも明らかにした。一つは「ロッキード事件=虎の尾論」、つまり、いまも続く対米従属シンドロームである。第二に、自民党内の陰湿な権力闘争に必然的に伴う、政・官・財の三者による「権力の犯罪」である。

そして第三に、官僚支配からの脱却を図ろうとする政治家を排除する勢力の存在である。

 ベルリンの壁が撤去され、冷戦が終焉した時が、わが国にとっては対米自立の最大のチャンスだった。平成5年8月、細川護熙首相のもとで非自民八党派連立内閣が成立したが、細川政権は一国繁栄主義、官僚支配政治から脱却し、アメリカとは「自立・協力」関係を樹立する方向を模索した。細川政権は、対米自立を志向した「角栄政治」の改革的発展を目指したのだ。

 しかし、細川政権による対米自立路線は、ポスト冷戦期にアメリカの巨大資本による世界支配が始まることによって、挫折する。奇しくもこの年の12月、田中角栄が脳梗塞で言葉を失ったまま、無念の涙を呑んで75歳で没した。

 その後、自由化・規制緩和を標榜し、国境を超えて、ヒト・モノ・カネが勝手気ままに移動するワンワールド志向の「新自由主義」が世界を跋扈するようになる。対米自立は雲散霧消してしまった。

 こうした中で起きたのが「小沢一郎・陸山会事件」である。議会政治の復権によって、自立国家を創造しようとする政治家を政界から葬ろうとする点で、ロッキード事件と陸山会事件は「権力による犯罪」という同じ構造を持っている。

 この「権力による犯罪」は、対米従属シンドロームに由来することは明らかだ。アメリカと政治的経済的な利害関係を共有するわが国の政治家、官僚、財界は無意識のうちに、アメリカの利益を代弁している。

 アメリカの一部巨大資本の利益を最優先にするTPP。このTPP交渉で大筋合意に持ち込んだ甘利明前経済再生担当相が今年1月、現金授受問題で閣僚を辞任した。甘利氏は千葉県の建設会社から600万円を受け取っていたと追及されたが、結局は不起訴処分になった。国会閉幕前日のことである。

 国会開会中、甘利氏はTPP問題に関して、アメリカに不利だと思われることは一切明らかにせず、辞任後は「睡眠障害」と称して、国会への登院すらしなかった。対米従属シンドロームが、かくも深く底流に流れているのか、と思わせる経過である。

 安倍自公連立政権は、安保法制を強引に成立させ、普天間飛行場の辺野古移設を強行し、立憲主義を崩壊させた。この手法は、敗戦後の対米従属シンドロームのなせる病的な統治ノウハウといえる。

 問題は日本人の多くが、これを良しとして許容していることだ。明治維新以来、官僚は「お上意識」と「天皇制」を巧みに利用して、「天皇制従属シンドローム」ともいうべき統治ノウハウを編み出した。それが大東亜戦争、敗戦という悲劇を招いたことを忘れてはならない。

 いまも官僚支配の根底にある日本人のお上意識、これを何としても改革する必要がある。自らの頭で考え、自らの責任で意思決定する「人間の自立」なくして「日本国の自立」はない。福沢諭吉がいう「独立自尊」とはそういうことだ。

 10年前、私は講談社から『ロッキード事件――葬られた真実』を上梓したが、今回は同書に新たな事実を加え、大幅に加筆修正したものである。

 私は陸山会事件以後、「日本一新の会」代表として、対米従属シンドロームの打破を願って週一回のメルマガを発信して活動を続けている。本書についてのご意見があれば、日本一新の会事務局(jimukyoku(☆)nipponissin.com)にお届けいただければ有難い。

 最後に、きわめて短期間で本書を刊行できたこと、さらに貴重な進言をいただいた(株)K&Kプレス代表取締役の南丘喜八郎さん、副編集長の中村友哉さんはじめ、スタッフの皆さんに謝意を表したい。

     

  平成28年6月15日

            日本一新の会代表   平野貞夫妙観

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