「国民の生活が第一、自立と共生、政治の根本について議論する広場」

「日本一新運動」の原点―327

 日本一新の会・代表 平野 貞夫妙観

 

〇「生前退位」という国家の根幹事項の歴史と現代的問題を考えよう!

 

 7月13日(水)東京都知事選挙公示日の前日、四野党が鳥越俊太郎候補に一本化することになり、宇都宮候補が不出馬の記者会見を行った直後、NHKは午後7時のニュースで「天皇にはかねてから生前退位のご意向があった」と報道した。このニュースは直ちに国の内外を飛び交い、翌朝の新聞・テレビの全体が「生前退位は当然」と一気呵成に世論を形成させた。

 

 参議院選挙が安倍自公政権の圧勝で終わり、憲法改正勢力が事実上参議院でも実現し、安倍首相にとっては「我が世の夏」となった。唯一の難問は都知事選が自民党分裂選挙となった。一部には目眩ましの情報操作だと批判する見方があるが、ことはそんなレベルの問題ではない。国家存立に関わる重大問題であると指摘したい。報道に至った事実関係について専門家は、宮内庁に詳しい記者が内部の機密情報をNHKの報道責任者の判断で報道したとの見方だ。官邸側との調整には見方が分かれるが、最終的に官邸も拒否しなかったようだ。

 

 驚いたことにこのNHKの報道に巨大メディアが一斉に追随し、「生前退位」の国民的世論を一色にした。事実上の立法行為が行われたと同じだ。こういう政治手法が代表制民主主義にとって最も危険である。こういった方法で国家の最重要課題を固めようという政治勢力があることは、国民主権の名において公共放送NHKのあり方を含め、徹底的に追及するべきことである。断っておくが私は「生前退位」に単純に反対しているのではない。

 歴史的先例のある「生前退位」を明治憲法下で排除した理由、戦後の新憲法と皇室典範を、法案として帝国議会で審議した際、「生前退位」の導入について徹底的な議論が行われた結果、導入されなかった論拠を、国民が十分に理解したうえで問題が提起されるべきであった。

 

(天皇の「生前退位」についての議論)

 

 天皇が生前に退位することは歴史上例がある。最後の生前退位は、江戸時代後期の光格天皇で1817年に退位しその後200年間生前退位は行われていない。歴代天皇125代のうち、神代の9代を除いて、残りの半数以上が生前の強制退位だったといわれている。そこで明治維新後、「生前退位」はどのような議論が行われていたか、要点を紹介する。

 

1)明治憲法制定時の議論 明治憲法は欽定憲法である。皇室については、憲法と対等であった「皇室典範」に規定されていた。憲法も皇室典範も明治天皇の名で制定されたが、実際は薩長を中心とする幕藩官僚と有識者がつくった。ここでの議論の中心は、「生前退位」を制度化するか否かで、主流は歴史の体験から反対論が多かった。それでも例外的(精神・身体の重患等の場合)に生前退位を可能とすべしとの強い意見があった。「皇室法典初稿」(明治19年)、皇室典範草案(明治20年)にはその趣旨が入っていた。これらの問題は明治憲法の審議と直結するもので、関係者の激論を経て、憲法17条に「摂政ヲ置クハ皇室典範ノ定ムル所ニ依ル」とした。こうして制定された「皇室典範」第10条で、「天皇崩スルトキハ皇嗣即チ踐祚シ祖宗ノ神器ヲ承ク」と、「生前退位」を排除し、摂政制度で議論の問題に対応することになった。

 

2)明治憲法での運用 大正10年11月25日から、同15年12月26日まで、大正天皇の健康上の理由で裕仁皇太子が摂政に就任した。これが唯一の先例である。

 なお、昭和11年2月26日に発生した「2・26事件」の一部軍部が反乱の際「昭和天皇を退位させて、弟の秩父宮殿下を即位させる構想」があった。また、昭和20年8月の敗戦に伴い、占領軍の一部に天皇制廃止論があった。国内にも昭和天皇の「退位論」もあり、これらが新憲法下での「生前退位」消極論に心理的影響を与えた。

 

3)新憲法制定時の議論 新憲法の審議で「皇室典範」を法律とすることは国民主権から異論はなかった。憲法第2条は「皇位は、世襲のものであつて、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する」と規定した。この『皇室典範』の帝国議会貴族院での審議は、「生前退位」をめぐって激論となった。

代表的な論点を紹介する。

 

《賛成論》 イ、わが国でも先例が多く英国でも認められている。ロ、天皇の不治の重患のある場合、、退位を認めないのは不合理である。ハ、人間天皇の自由意志は尊重されるべきである。ニ、天皇の道徳的意見による退位を認めないことは、国民道徳との関係から好ましくない。

 

《反対論》 イ、日本の歴史上の譲位には、天皇の意志に反して強要によって行われており紛争の原因となった。ロ、不治の重患による退位を認めると、その口実のもとに退位論が問題となり、かえって皇位の安泰が損なわれる。重患の場合には摂政で解決されるべきである。ハ、退位の自由を認めれば、即位を拒む自由も認めなければならず、皇位世襲の原則が実現されなくなる。ニ、自由意志による退位は、そのような偽装のもとに行われる恐れがある。自由意志による退位を保証する規定は技術的に困難である。

 

4)新憲法施行後の憲法学者の見解 『皇室典範』が新憲法のもと、法律として施行された直後、代表的憲法学者の意見を紹介しておく。

 

イ、宮沢俊義 (憲法第2条は)必ずしも、天皇が生前に退位することを禁止する趣旨を持つものではない。現在の皇室典範では、そうした退位は許されていないが、将来、法律で改正することは可能である。

 

ロ、佐藤功 憲法上は退位が許されないものとされているのではないから、皇室典範の改正によって退位制度を認めることは可能である。

 

ハ、清宮四郎 現に皇室典範制定の際に貴族院で論議されたが、現行法には何らの規定もない。立法論としては賛否両論があり、その理由についてはいろいろ考えられるが、退位を必要とする事態が生ずることは予想せられるところであり、そのような場合には、むしろ退位を認めることにした方が妥当。

 

ニ、伊東正巳 国会が皇室典範を改正することにより、例えば、生前退位や女帝を認めることができる。

 

 新憲法下、権威のある憲法学者の意見は、ニュアンスや強弱の差はあっても、皇室典範を改正することで「生前退位はできる」というものであった。その背景には日本は新憲法により立憲主義と議会民主政治の発展が期待できるとする、理想主義を共有していたといえる。

 

(「生前退位問題」は、日本の民主政治の実態からも議論すべきである)

 

 残念ながら、戦後の権威ある憲法学者が期待した立憲主義や議会民主政治がわが国には定着していない。戦後70年の内45年間を衆議院事務局職員と参議院議員として憲法運用の実態を体験し、その後13年間議会政治の研究評論を重ねてきた私にとって、現時点でのわが国の政治実態と、立憲主義の冒涜と違憲状態を続ける衆参両院の劣化は、戦後否、明治近代化以後、最悪状況にあると思う。このような事態に公共放送たるNHKが宮内庁の一部幹部などと「天皇の名」を利用して、「生前退位論」を特ダネとして報道し非民主的方法で国民世論を操作した責任は重大である。 

 平成12年、自民党の一部派閥代表者が「談合クーデター」で、森喜朗政権をつくった違憲行為を思い出して欲しい。小渕首相が昏睡状態にあるにもかかわらず医師団の発表を抑え、青木官房長官が嘘言を連発し、憲法第70条等に違反して、森自公政権をつくった事実だ。当時、大多数の憲法学者はこの事態に口を塞ぎ、批判しなかった。以後、日本の議会民主政治は劣化の坂を転げ落ちている。 

新憲法制定直後、日本に民主政治が定着することを期待し、「皇室典範」という法律を改正することで、「生前退位」ができると論じた憲法学者達が、今日の日本の政治状況を見てどう考えるだろうか。長期間にわたって衆参両院の構成が、最高裁から「違憲状態」と指摘されている国会の現状。ほとんどの憲法学者と歴代内閣法制局長官などが「集団的自衛権の行使」の安保法制を違憲と指摘し、解釈改憲として立憲主義を崩壊させた安倍自公政権を批判している。そんな状況下で、単純に「生前退位」を可能と論ずるとは思われない。劣化し、悪質化した政治状況で、「生前退位」が立憲主義の下で正当に行われる保証はない。 

 驚くことに、巨大新聞の全社説がこぞって「生前退位」の法改正推進論であり「天皇のご意向が生かせる」とNHKの報道に追随している。これではマスコミによるポピュリズムがつくるファシズムだ。現代の憲法学者や政治学者がどのような見解を示すか見守りたい。 

 この問題は立法府の責任である。皇室会議などで宮内庁から提起されて、両院議長が国民の代表者たる国会議員を通じて国民に伝える手続を採るべきである。その上で問題の本質を国民が理解することが必要である。わが国に真の民主政治が定着することが、「生前退位」を制度化する前提である。そのことを国民的に議論すべきである。自民・公明・民進という政党の劣化した政治状況を、これ以上続けることは現憲法の基本原理を継続できる保証はない。

 古代・中世の朝廷の紛争により、四国の地の果てで落人となった祖先のDNAを持つ立場から敢えて警告しておく。  

(了)

             (「私の共産党物語」は休みました)

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